常楽さんの健康ブログ

健康について考えるブログです。

太極拳とフロー体験

芸術やスポーツの世界にはフロー体験と呼ばれるものがある。フロー体験というのは「時間の経過を忘れて、没入するほどの喜びの体験」のことを言う。フロー体験を得るためには自分がしようとしていることのチャレンジ度(難易度)とそのことに対する自分のスキル(能力)のバランスが均衡した時に得られるとされている。

どんなスポーツでも芸術でも、最初に自分が挑戦した時は難しくてなかなか上手く出来ないために、その事を楽しむ状況にはならないが、少しずつ上達するにしたがって夢中になり、時間の経過を忘れる程に楽しくなってくる。これがフロー体験というものだ。

私は太極拳を始めて18年になるが、習い始めた頃は全く先生の動きについて行けず不安状態が1年ほど続いた経験があるが、次第に体が自然に動くようになり、現在は毎回行う度に太極拳の難しさを意識しながらも、自分なりに太極拳を舞う事の楽しさを感じている。

フロー体験は喜びの体験であり、ポジティブ感情の発露した体験である。先の項(大切なのはポジティブ思考)でも述べた通り、ポジティブ感情は自律神経のバランスを促し、血流を増やして健康効果を高めることが期待されている。特に、太極拳の初心者は最初の1年ぐらいの間は両手、両足を左右バラバラに動かすことがなかなか難しく、大変脳が混乱した状態(不安状態)を経験するが、これは「どうしたら上手く両手足を動かしたらよいのだろう」と脳がすべての神経細胞をフル回転させている状態なので、認知症予防に大変良いという研究報告が発表されている。

太極拳は適度な有酸素運動であり、下肢筋力を強化し、心肺機能を高めるため誰にでもお勧めすることが出来る運動といえる。

大切なのはポジティブ思考

 定期的に適度の運動を継続することが健康に良いことは、今では誰でも理解している。しかし、このことが科学的に証明されたのは戦後になってからだ。1953年に発表されたロンドン大学のモリス教授らの研究でロンドンバスの運転手(仕事中は座ったままで体はほとんど動かすことはない)はバスの中を立ったままで動き回っている車掌と比較して冠動脈心疾患での死亡者が3倍高いことが分かった。そしてその後はハーバード大学のパフェンバーガー教授らの研究があり、今では運動と健康の間には強い相関関係があることが分かっている。

 そんな時、仕事がそのまま運動をすることに繋がれば理想的だろう。実際、私たちの遠い祖先たちは獲物を追いかけて野や山をさ迷い歩いていた狩猟民族であり、さらに約1万年前に農業が始まったと言われる農耕民族も毎日畑に出て運動してきたのだ。従って、私たちの体は運動することで体の生理機能が最大限発揮されるような構造になっていると言える。

 それゆえ現代社会においても、毎日適度に体を動かすことが求められる仕事であれば、特に仕事の後にジムに通う必要もない。そのような仕事の1つの例としてはレストランのウエイトレスがある。比較的大きなレストランで人気のあるレストランなら、尚良い。毎日店内を忙しく歩き回り、手には料理を持ち、お客の注文をとり、テーブルの後片付けをし、と昼食時や夕食時の時間帯は頭を使い、歩き回り、手には料理を持っている。私は昼食の時は外食が多いので何回もこのような風景に出くわすが、お客に笑顔をみせて話しかけ、体を動かしているのだから、恐ら彼女たちは毎日1万歩以上を歩きながら且つお客に気配りをしているので頭をフル回転しているに違いない。

 認知症予防にはダブルタスクが良いとされている。ダブルタスクとは2つのことを同時に行うことをいう。特に運動しながら頭を使うのが大変良い。運動をすることで脳の血流が増えた状態で100から7を引くなどの引き算をするのである。

 しかし1点大変重要な点がある。それは彼女らが「自分は毎日体を動かし、お客に笑顔で話しかけをしているのだから健康に良い」と自覚している場合には健康効果はさらに高まるという点である。逆に、「毎日忙しくて重労働で大変だ」と思いながら仕事をしている場合には健康効果は高まらない、という論文が発表されている。

 最終的には何事においても、ポジティブに向き合う態度が自分を良い方向に導くという事だろう。

 

太極拳は究極の有酸素運動

 近年、太極拳の健康効果についての研究論文が数多く発表されている。世界の医学系雑誌に発表された論文は昨年1年だけでも110本以上になる。それだけ太極拳の健康効果について世界中の大学などの研究機関で注目を集めている証だろう。

 太極拳は中国で武術として伝えられてきたものだが、近年は健康のための運動として愛好されている。太極拳はスローに優雅に滑らかに動きながら、体重を右足から左足へそしてまた、左足から右足へと体重移動させるのが特徴である。一見軽い運動に見えるが、運動強度はやや早歩きぐらいの運動である。そして深い呼吸を伴った適度な有酸素運動であることから、海外ではムービング・メディテーション(動きながらの瞑想)などとも呼ばれている。

 主な健康効果としては①バランス能力の向上による転倒予防②下肢筋力の強化③心肺機能の強化④ストレス軽減効果そして近年は⑤認知機能の向上などが発表されている。

 太極拳は性別・年齢を問わずに行うことができるので、高齢者にとっては健康維持のために最適な運動といえるが、一番の問題は覚えるのに時間が掛かること。何とか体を動かすことが出来るようになるまでには週1回の太極拳練習で少なくとも1年以上の練習期間が必要になる。しかし、最初の1-2年の困難な期間(実際はこの期間が脳を非常に活性化させているので認知症予防に有効)を乗り越えることが出来れば、その後に得られるものはその期間の苦労の何倍にもなって帰ってくるので是非続けてほしいと思っている。

体と脳のエクササイズが健康寿命の延伸になる

ハーバード大学系列のマクレーン病院のバヒア博士によると、体を動かしてエクササイズすることが筋肉を鍛え、血流を促して健康に良いように、脳についても新しいことを学ぶことに挑戦することが脳の血流を増やし神経細胞を再生させて認知機能の向上につながるとのことである。

外国語、絵画、俳句などそれぞれの好みに応じて教室を選択したり、大学に再度挑戦したりといろいろあるが、バヒア博士によると難しいものに挑戦するほど脳の神経細胞を刺激させるようだ。

定年を迎えたばかりの人や間もなく定年を迎える人にとっては、しばらくゆっくりしたいという思いがあるかも知れないが“リタイヤメント・ブルー”という言葉があるように定年退職により生きがいを失って“うつ”になってしまうケースがあるので要注意だ。

人は生きている限り、体と脳のエクササイズを続けることが健康寿命を延ばす方法なのだろう。

動物性たんぱく質の摂取量の善悪は年代によって異なる

 食の欧米化が癌とくに大腸がんの増加に影響を与えていることはすでに、多くの研究からも分かっている。そうした中で南カリフォルニア大学モーガン・レビンらの研究グループから興味深い研究が発表された。それは肉などの動物性たんぱく質の摂取量と死亡リスクの関係が年代で全く異なるというものだ。

 確かに40代‐50代の中高年世代では肉などの動物性たんぱく質の摂取が癌のリスクを上げて死亡リスクも高めるが、このリスクは65歳を境に逆転するという。つまり、65歳以上の高齢者になると、むしろ動物性たんぱく質を摂取することが癌のリスクを下げ総体的に死亡リスクを下げることにつながるようだ。

 人間の「からだ」とは誠に摩訶不思議なものだ。これだけ科学が発達しても人は人の「からだ」のことをどれだけ分かっているだろう。私たちの体は60兆の細胞からなっているという。そして、この世に生を受けてから命を終えるまで、ホルモンなどの内分泌系や交感神経・副交感神経などの神経系が休みなく働いているが、やがて年とともに代謝速度も遅くなってくる。こうした年とともに変わってくる体内の微妙な変化と動物性たんぱく質の摂取量そして死亡リスクは複雑に関係しているのだろうか。

人はなぜ年取ると時間の経過を早く感じるようになるのか

私は太極拳をやっているので高齢者の皆さんと話をする機会が良くある。そのような時ほぼ10人中10人の人がうなずくことが「時間の経過を早く感じる」ということだ。

それでは、なぜ年を取ると時間の経過を早く感じるようになるのだろうか。フランスの科学者アレキシス・カレルが「人間この未知なるもの」という本の中で以下のように大河の流れの例えを使って説明している。

“大河の流れに沿って歩いているとイメージしてみよう。午前中はまだ元気があり足取りも軽く歩いているため大河の流れが遅いと感じる。お昼頃には少し足取りも遅くなり大河の流れと同じくらいとなる。そして夕方になると疲れも出て足取りは遅くなり、大河の流れの方が速くなってくる。”

これは「午前中」が少年期、「お昼」が青年期、「夕方」が中高年期の例えとなっている。つまり、少年時代は成長著しいため私たちの体内では活発に代謝がなされているおり時間の流れが遅いと感じるが、年とともに年々代謝が遅くなってくるため、逆に大河の流れは一定であるにもかかわらず、私たちは相対的に時間の経過を早く感じるようになってしまうようだ。

子供の時と時間の経過の早さに変わりはないが、私たちは日々年々時が瞬く間に過ぎて行ってしまうと感じるのは生理的に止められないようだ。したがって、私は「今この時」を大切にすることが重要だと思っている。

運動と脳の働き

数年前に『脳を鍛えるには運動しかない!』(著)という本が出版され話題となった。著者はハーバード大学のジョン・レイティ教授で、日本に講演に来られた際に私も少しお話しする機会があったが非常に話しやすい先生であった。 この本の中で運動することは脳を育ててよい状態に保つことになるのだとして、シカゴのある高校で行われた事例を紹介している。そのシカゴの高校では「0時限体育」と称して、朝の1時限の授業の始まる前に校内のトラックをややきつめの速さで4周回ることを始めたそうですが、その結果生徒の健康が向上しただけでなく、成績の著しい向上も見られたというものだ。 運動すれば心臓の鼓動が早まることで脳の血流も増えることから、脳由来神経栄養因子と言われるBDNFが増えることは近年の研究で分かっている。BDNFは脳の神経細胞の成長を促し、記憶や学習に影響を与えると言われているので、こうした朝練が生徒の成績の向上に良い影響を与えることは十分考えられることではないかと思う。

この本の影響かどうかわからないが、日本の小学校でも朝登校すると生徒が校内のトラックを走ることを進めている学校もあるようだ。しかし、最近はスマホや携帯ゲーム機の普及で子供たちの運動量は減少しているのが現状のようだ。 実際、公園などに遊びに来ている子供たちも公園の片隅で数人集まってスマホなどでゲームに夢中になっている光景をよく見かける。せっかく公園に来ているのだから、走り回って遊んでほしいと思うのだが。。。